Access to the World ー異文化に触れる旅 デンマーク編
デンマークと聞くと、アンデルセン、レゴ、人魚姫など、おとぎの国のようなイメージが思い浮かぶのではないだろうか。
だが、そこに住む人たちの暮らしぶりはなかなか伝わってこない。
そこで、北欧の一角を成すこの国の四季折々の日常にスポットを当ててみた。
デンマークに暮らしてみれば
- 地方で味わうデンマークの良さ
北欧・デンマークの春の息吹きは、デンマーク語でポスケと呼ばれる4月のキリスト復活祭から始まる。
春の訪れを迎え祝う意味もあるこの行事では、新しい生命の象徴として、カラフルに彩られた卵やヒヨコの人形などが各家庭に飾られ、スーパーには卵型のチョコレートや、ヒヨコの絵をあしらった様々なビールやお菓子などが並ぶ。
やがて大地一面に白いアネモネの花が咲き乱れる春を過ぎると、百夜の夏が訪れる。
特に6月や7月には、夜10時になっても日が沈むことはない。
そんな待ち焦がれていた太陽の下で、人々は野外に飛び出し、スポーツやバーベキューなど、さまざまな形で短い夏を精いっぱい楽しむ。
町のカフェやレストランでは外にたくさんのテーブルやイスが並べられ、多くの人々が野外で食事やおしゃべりに興じるのだ。
もちろんビールも欠かせない。デンマーク人にこよなく愛されているのは、世界的に有名なカールスバー(Carlsberg)ビールとツボー(Tuborg)ビール。
デンマークではこの時期になると、昼間からビールを片手に、太陽の下で友人たちとのんびりと語り合う姿をよく見かける。
このようなゆったりとした時間を、デンマーク語ではヒュゲ(Hygge)という言葉で形容する。ヒュゲとは「楽しい、心地よい」という意味だ。
この国ではよく別れ際にこの言葉を使う。あえて日本語にあてはめると「今日はとてもHyggeでした。」といった挨拶になるだろうか。こぼれるような笑顔で握手をして別れを告げ、幸せの時間を共有できたことに対する感謝の意を表すのだ。
8月を過ぎると、自然はその色を徐々に薄めていき、11月になると昼間よりも夜の時間のほうが長くなる。
夏は太陽の下で楽しんだヒュゲな時間も、長く暗い冬には家の中で楽しむことになる。この時期、わずかしか顔を出さない太陽の代わりに、デンマーク人の心を癒してくれるのがキャンドルの灯りだ。
デンマークでは、どんな家庭にも様々なキャンドルスタンドがあり、冬になると毎日のようにオレンジ色の温かな火がともされ、家の中に家族の影が揺らめく。
外は氷点下になるデンマークの冬も、室内は暖房設備が整備されているためにとても快適に過ごすことができる。
そんな心も身体も暖かく感じられる家の中で、人々は大切な家族や友人たちと、キャンドルの明かりを囲み、ビールやホットチョコレートを手にヒュゲな時間を楽しむのである。
デンマークは小さな国で、首都のコペンハーゲンに人口が集中しているが、ヒュゲでのんびりとしたこの国の本当の良さは、コペンハーゲンよりも地方にある。
大きな青い空と、どこまでも続く緑の大地に、伝統的な農家のオレンジ色の屋根と白壁が映えるデンマークの田園風景は、この国が得意とするどんな商業デザインも適わない、素晴らしい自然の芸術品だ。
特にその景色が一番美しくなるのが4月の終わりから5月にかけての春の時期。大地一面を覆う菜の花畑は、まるで黄色いじゅうたんのようにデンマークの大地を彩り、人々のこころに感動と安らぎを与えてくれる。
長い冬の後に訪れる喜びの春。いつまでも沈まぬ太陽の下で過す笑顔の夏。冬支度がはじまる穏やかな秋。キャンドルの明かりが温かい冬。
デンマークで暮らしてみると、日本の四季とは違った、季節のもつ新しい魅力を感じることができる。
そして今日もデンマークのあちこちで、人々は季節を感じながらヒュゲな時間を楽しんでいるのである。
一口コラム
- デンマークの母親は王室がお好き
2004年5月14日に行われたフレデリック皇太子とマリー妃の結婚式はデンマークの母親たちにとって大きな喜びの日となった。
そもそも、デンマークの王室はとてもフレンドリーで、町中で買い物中に現マルグレーテ2世女王にバッタリ遭遇、なんてことも本当にある。そんな愛すべき王室の話題は常にデンマーク人たちの関心の的。特にフレデリック皇太子の交際相手については国民が長年やきもきしてきた話題だった。
国民からの祝福を受けた結婚式が終った今、デンマークの母親たちの次の関心は、早くも跡継ぎの話題に移っている。自分たちの王室をまるで家族のように愛する気持ちが、デンマークの人々の心にはあふれているのだ。
私が選ぶデンマークの3つ
- 世界に誇る童話作家
ハンス・クリスチャン・アナセン(アンデルセン) - デンマークの大切な交通手段
自転車 - 愛国心の象徴
デンマーク国旗
世界的に有名なアンデルセン童話の作者 H.C.Andersenはデンマーク人。
来年2005年は生誕200年に当たり、デンマークではさまざまなイベントが予定されている。
しかし、このAndersen、日本では「アンデルセン」と呼んでいるが、デンマーク語では「アナセン」と発音する。デンマーク語では[d]は発音せずに省略することが多い。
デンマーク人はみんな彼のことをホー(H)・シー・アナセン、と親しみを込めて呼ぶ。もちろん彼の作品はこの国でも人気があり、子どもたちはアンデルセン童話を読んで育つ。
彼が幼少時代を過したオーデンセの街にはアナセン(アンデルセン)博物館があり、毎年、彼の童話を愛する世界中の人々が訪れ、にぎわっている。
デンマークで一番重要な交通手段は自転車である。この国の道路には車道と歩道の間に専用自転車道があり、自転車での移動がしやすい環境が整備されている。
しかし、多くの観光客が訪れる夏のシーズンには、このルールを知らない人々が自転車道を歩き、コペンハーゲンの自転車乗りたちの悩みの種となっている。
そんなデンマークの自転車風景の中でも面白いのが、子どもを乗せて走るための自転車の荷台だ。ホロをかけるとちいさなテントのようになるその荷車は自転車の前や後ろに取り付けられる。
子どもたちを乗せて走るほほえましい姿を街のあちこちで目にすることができるのだ。
デンマーク人は自分たちの国旗が大好き。
ダーネブロ(Dannebrog)と呼ばれるデンマークの国旗の由来はとても古く、はるか昔、この国の建国のきっかけとなる戦いで、空からこの旗が降ってきた後、戦いに勝利したため使われ始めた、という伝説があるくらいだ。
デンマーク人はこの歴史ある国旗をこよなく愛し、多くの家の庭には国旗掲揚のポールが立てられ、祝い事のあるたびに高々と国旗が掲揚される。
街中に行けば、国旗をあしらった様々なシールや、手に持てるサイズの国旗をあちこちで買うことができる。デンマーク人はこれを誕生日などの祝い事の飾り付けにも使うのである。