はじめに
当研究は、昨今の不可解な事件(子どもによる殺人、親の子殺し、子の親殺し、怨恨による殺人など)を引き起こしている原因のひとつにコミュニティの希薄・つながりの減少があるのではないかと考え、建築の分野より何かその解決案を提起することができないだろうかと行っているものである。
現在、社会の中で社会システムの弊害から様々な問題が発生してきている。中でも少子高齢化における社会問題は我が国における緊急課題であり、また「コミュニティ」と呼ばれる人と人との生活関係が薄れているといったことが要因とされる数々の社会問題も発生してきている。
一世代前までの日本にあった大家族的な要素や、近所づきあいの中にあった要素は、コミュニティ形成において非常に重要なものであったと考えられる。
しかし家族形態も近所関係も変化した現在、昔がよかったからといってそれに戻すことはできず、また戻すべきでもない。私たちは新しい時代へ新しい形で、その要素を継承していく新しいモノや関係、カタチを作っていく必要があるのではないだろうか。
そしてそれらを持つ新しい施設やまちづくり活動を将来の日本に創り出すということが、当研究の最終目標である。
目的・方法
- 目的
- 方法
- △ 図1 研究のプロセス
上述のように当研究の最終的な目標は、多世代での交流を行うことのできる空間や施設を創造することにある。
ただしその出来上がった媒体が結果ということではなく、それに至る過程と、建築分野に限らない異分野との連携、実践を伴った実験的な活動の繰り返しから問題点を把握していくその方法論も重要な成果物として考えており、それらを念頭に置きながら研究を進めていくということを研究目的としている。
研究は現在も継続して行われているものであり、当論文では2008年2月現在までの研究成果について述べる。
当研究では、多世代交流空間研究を行っていくためのプロセスとして、研究調査と実践を組み合わせた10段階のステップを設けた(図1)。
当論文ではこの10のステップに基づいて報告をしていく。
目標の設定 〜 仮説の構築
- □Step1 目標の設定
- □Step2 社会環境要因の分析
- □Step3 事例調査
- △ 表2 日本での事例調査
- □Step4 課題の整理・分析
- □Step5 仮説の構築
目標の設定においては目的にも述べている通り「多世代交流空間の創出」としている。
研究を行うにあたって、既存のデータや刊行物より日本における少子高齢化や社会問題の検討・分析を行った。
多世代交流空間の実態を把握するため、実際にどのような交流が行われているか、その実態や課題を調査するため多世代での交流が発生しているのではないかと予想される施設の調査を行った。
調査は1999年から2001年に行い、まずは都心とその近郊での現状把握として東京・神奈川・埼玉の14か所の複合施設を対象に、実際の交流の現状や問題点の検証を行った。
次に地方都市の現状把握として4か所の施設を対象に調査を行った(表2)。
その結果、多世代交流においては「子ども」や「高齢者」に括らず、幅広い世代層での交流が有効的な事と、「集める場所」ではなく自然発生的に「集まる場所」を設ける事が重要であるとの課題を導き出した。
さらに「児童教育」「高齢者福祉」「コミュニティ」「デザイン(創作)」という点に調査のキーワードを絞り込み、新たな事例や提案を求めて海外に視野を向け、その調査対象国として4つのキーワードが優れているとされる北欧・デンマーク国に注目し2002年より現地においての実態調査研究を開始した。
これらの調査研究より、新たな場の創出やコミュニティ形成には基盤となる「人のネットワーク」の形成が重要などのいくつかの課題を抽出し、その解決案を探っていった。
その中で多世代交流を促進する要素のひとつとして「学びの場」に注目をした。
さらにそれまでの理論を実証するため、実際に日本においての実践活動を行うことにした。
多世代での交流空間を創出する目的で「新たな学びのカタチ(当事者参加型の体験学習の場)」を地域の中に創り出すことができるのではないだろうかという仮説を構築した。
第一展開 Step6
- □Step6 提案・テーマ設定
- ◆フォルケホイスコーレ
- △ 図3 デンマークのフォルケホイスコーレの位置
- △ 表4 サマーコースのプログラム
- △ 表5 2004年度の前期サマーコース参加者の年代別内訳
- ◆カルゥ国際語学学校について
- ◆実現のための課題
この「新たな学びの場」の実践として、筆者たちは「学校のようなもの」を提案することとした。「学校」ではなく「学校のようなもの」である。この概要はデンマークのフォルケホイスコーレを参考としている。
フォルケホイスコーレとは、デンマークの哲学者N.F.S.グルントヴィ(1783〜1872)により提唱されたデンマーク発祥の言わば生涯学習学校である。
現在では約80のフォルケホイスコーレがデンマーク全国に存在している(図3)。
このフォルケホイスコーレは全寮制の民間主体の学校であり、ひとつの学校で校舎、宿泊所、食堂、その他の施設を有している。
多いところでは100人以上の収容が可能で、多くの人々がひとつ屋根の下で暮らしながら学習をしている。
また学校によって学ぶ分野にそれぞれ特徴があり、スポーツや芸術、社会学や福祉学、心理学など様々な学校があり、人々は自分の希望に合わせて自由に学校を選ぶことが出来る。
フォルケホイスコーレには入学試験というものはなく満18歳以上の人間であれば誰でも(外国人でも)入学可能な生涯学習施設であり、お年寄りや我々外国人も多く利用している。
ただし、ほとんどの学校はデンマーク人のための教育機関であり、授業は当然のことながらデンマーク語で行われている。
またこのフォルケホイスコーレには試験もないが卒業証明などもない。人々は主に趣味の拡大や、大学に進む前段階の、自分にその分野の適性があるかどうかを試す場として利用している人が多い。
これらはデンマークの国民性より来ているものであり資格や肩書きよりも、自身が何をしたいのか、何を学びたいのかということを重要視する考え・生き方からきている。
そして学校側もただ知識を詰め込ませるのではなく、いかに楽しく学ぶかということを重要視し、知識ではなく体験を通じて楽しんで学ぶことの出来るようプログラムに工夫を凝らしている(表4)。
学校の学習期間は大きく2つにわけられ、3〜6ヶ月のロングコースと、2週間程度のサマーコースがある。両者によって特徴が違うが、当研究では『多世代交流』という視点から、語学を学ぶためのフォルケホイスコーレのサマーコースに注目をした。
ここでは下は幼児から、上は70代のお年寄りまでが集い、語学を学ぶという目的の下で2週間の共同生活が行われている。
当研究では実際にこの施設に滞在し、筆者自らが学習体験をしながら多世代交流の実態についての調査を行っていった。
2004年度の前期サマーコースでは計82名が参加をし、そこで巨大家族の生活が行われ、文字通り多世代交流が自然に発生していた(表5)。
カルゥ国際語学学校はデンマークのKalø[カルゥ]という場所にあり、カルゥ農業学校と併設した語学習得のフォルケホイスコーレである。
農業学校は1949年に、語学学校は1953年に開校した歴史ある教育施設である。
この語学学校では秋・春の18〜19週間の長期コースと、夏期の2週間のショートコースを設けている。長期コースでは集中した語学の習得を目的とし、主に20〜30代の年齢層、世界約20カ国からの外国人生徒も毎回多く集まり共同生活をしている。
コースは外国人のためのデンマーク語のほか、デンマーク人を対象とした英語、ドイツ語、フランス語、スペイン語のクラスがある。
夏期コースは2種類あり、デンマーク人のためのコース(前期コース)と、外国人向けのコース(後期コース)に分かれ、日程も分けられている。
後期コースでは主にヨーロッパ圏内より20〜50代くらいの年齢層が語学習得を目的に集まるが、前期コースでは避暑を目的に家族で訪れる人も多く、コースプログラムに4〜10歳児クラス、10〜18歳クラスが組み込まれており、子どもの数も多い。
またこのカルゥ国際語学学校は自然保護森林と美しいハーバーに囲まれた絶好の避暑地に建てられており、夏期休暇を楽しむには魅力的な場所にある。
そのため避暑兼語学習得に訪れるデンマーク人のお年寄りも多く、これにより偶発的に多世代が集う施設が発生している。
これらの調査の結果から多世代での交流が発生していることは十分に確証できたが、問題はそれらの空間の創造に必要な要素は何か、ということである。
ここではそれらにおける考察を簡単に述べておく。
サマーコースにおいて、利用者が支払う学費(宿泊、食費などすべてを含む)は2週間で約63,000円である。
しかし1人につき約68,000円の補助金がコムーネ(地方自治団体)より学校へと支給されている。
これら補助金は高率とされるデンマークの税金より支出されている。
日本に同等の施設を作る場合、最初にこの経済面の問題に直面すると思われ、民間組織以外の運営資金の調達や協力が第一の課題となる。
このような場や活動を行っていく場合には、その活動が持続可能であるための経済的施策も必要である。
またこれら多世代が集まるためには、フォルケホイスコーレなど生涯学習に対する積極性や存在の認知度、学校のレベルや質も保証されなければならない。
さらに利用者を納得させ、満足させる魅力あるプログラム作りも重要である。
今回の事例では「語学」がテーマとなってはいるが、日本に同等の施設を設けたとしても幅広い年齢層が集う場になるかどうかは明確には導き出せない。
まずは年代を越えて、個人個人が、自ら考え、行動する意識を持つための生涯学習への意欲の向上が重要であろう。
また事例において参加している高齢者は、学ぶ意欲の高い積極的なお年寄りたちが多い。
このような場を日本に置き換える場合には、日本での高齢者世代の習慣や考え方の違いを考慮し、実現に向けてはより深い検討が必要である。
「グリーンスクール」実践活動
- ◆「グリーンスクール」実験
- □Step7 運用計画の設定
- □Step8 人・物・事の確保
- □Step9 実行・設計
- □Step10 結果の整理・再検証
- △ 表6 交流における空間分析と交流指標分析の一例
このフォルケホイスコーレを参考にし、実際に日本において多世代交流の場を発生させる実験として、東京都小金井市において実践実験を行うことにし、その活動を「グリーンスクール」と名付けた。
このグリーンスクールでは「語学」に代わる世代に関係なく誰もが取り組めるテーマとして「環境学習」と「ものづくり」を設定した。
グリーンスクールを行うにあたって、以下のような運用計画を設定した。
1.子どもを集め、楽しむ・楽しめることを考える。
2.教えるのは大人たちだが、その大人たちも楽しみ、学べるものにする。
3.一連の流れから学生(若者)たちも経験、他世代・他分野との触れ合いなどを学べる場にする。
4.地域内の様々な活動、大学等教育機関との連動、相互協力を得る。最終的には地域住民へのアピール強化に繋げる。
5.地域の高齢者たちも参加が出来て楽しめるような仕組みを考える。
6.すべてをアウトプット化する。各活動は随時記録をし、新聞への記事掲載やホームページ化をして外部(地域外)へと発信する。
7.外部(地域外)での注目を高めるようにする。これにより内部での関心度が高まり、自分たちの地域での活動に気づき、参加を促すきっかけとなる。
8.アウトプットにおいてはスタッフや参加者がそれぞれの分野でアピールできることが望ましく、またねらいでもある。
9.アウトプットのターゲットは主に母親層。活動に欠かせない評判や口コミの媒体は母親のネットワークによるものが大きい。さらにその母親層から活動が夫、家族、親友へと伝わる。
10.活動実績を築き注目度も高まれば様々な分野からの理解も得られ、より幅広い活動がしやすくなる。
運用計画から実際に活動を行っていく上で以下の項目に従い、人・物・事の確保を行った。
・活動基盤(主体、慎重かつ十分な安全対策と情報管理)
・楽しい講義、司会進行の出来る人(場の空気を読める人。研究者は不向き)
・ものづくりの提案のできる人・専門家(楽しい人)
・外部へのアピール、活動への関心を繋げてくれる地域のキーマン・団体
・大学生・院生(労働力、スタッフ)
・地元の大学、研究室(知識的価値、安心感)
・公共施設、地域のイベント(実行、提供のできる場)
・交流に積極的な地域団体・NPO団体など(コラボレーション、口コミ・宣伝・評判)
・助成金、委託費等の提供機関(資金、教材提供等)
・地域情報紙、一般メディア等(広報と信頼、安心)
・一般住民の参加者と子どもたち
・全体を見渡し、調整の出来るプロデューサー(様々な分野との連携を持てる人)
*それぞれにおいて、それぞれが何らかの利潤の得られるような仕組み(WIN-WIN-WIN)になっているように設定する。
一見これらの要素を集めれば活動が起動するのは当然と思われるかもしれないが、実際にはそれぞれにおいて利潤を促せるようなWIN-WIN-WINの関係を作り出す事は難しく、特に活動の要となる「全体を見渡し、調整の出来るプロデューサー」がボランティア的な体制になるというのが多くの活動でみられる現象であり、そのために継続困難に陥るといった事例も少なくない。
グリーンスクールではその役割を筆者が担い、仮説の実証やデータの抽出などの有効的な利潤を発生させる事によって運営体制を構築していった。
以上のような準備を踏まえて2005年4月からグリーンスクール実験を開始した。
2005年度はその目標を法政大学小金井キャンパスの学園祭において学生や地域住民、子どもたちが「エコハウス」を自分たちの手で制作する、ということに定め、まずは小金井市を拠点にするNPO団体や公民館と協力をし、地域の子どもたちに向けた「かんきょう戦隊・雨レンジャー」という名の環境体験教室を夏休みに実施した。
その後、地域住民には「雨水活用のエコハウス制作」という呼びかけで、子どもたちに対しては「雨レンジャーの秘密基地づくり」と題して前活動との繋がりを作り、学生の活動の場に地域住民や子どもたちを引き入れた。
学生たちには実際に自分たちの手でエコハウスを建てるという目的の他に、子どもたちと恊働することによりそこから学ぶことや、実社会で経験を積む社会人や地域の人々と接する機会を持つこと、さらには活動を国際シンポジウムや全国大学生環境活動コンテストにおいて発表したりと、より大きな学習・体験の場へと繋げた。
エコハウス制作は11月の学園祭において行われ、学部1年生から大学院生までの計25名が有志として参加した。制作するエコハウスは学生コンペにより募集し、提出された9作品のうち2案を実際に制作することにし、最終日には参加者の手で2つの「エコハウス」が完成した。
継続して行った2006年度の活動では、4月から7月にかけて法政大学地域研究センターが東京都千代田区にて行った環境教育講座に参加をし、そのプログラム内で法政大学工学部建築学科と人間環境学部の学生スタッフが恊働して「環境を考えたまちづくりゲーム」を考案し、それを講座内で地域の中学1年生160人を対象に実行した。
さらにグリーンスクールでは環境教育講座とは別にゲームにより導き出された各提案を「エコタウン」として実際に立体空間にする都市模型製作の企画を立案した。
この企画を行うにあたっては新たに学生スタッフの増員が必要とされたため、小金井市で毎年行われている子どもを対象にしたイベントにおいて、法政大学の大学生たちが「エコドーム」の製作を行うというものづくり企画を設け、そこに新たに学生たちを呼び込み、その後11月から12月にかけて同大学小金井キャンパスにて地域住民を対象に全4回の「エコタウン」製作を実行した。
結果としては6歳から60歳までの幅広い年齢層による自然発生的な多世代交流の場を生み出す事ができ、参加者たちは成果物だけではなく、普段学ぶことの出来ない様々な体験をそれぞれに得ることができた。
実験は参加した学生たちによって常に記録を行い、一連の実践を通して結果の整理・分析を行った(表6)。
グリーンスクール実験の目標の中で、最重要項目としていたことは『子どもを媒体にして地域の大人たちをいかにして活動に巻き込むか』ということである。
今回の実験では当初子どもの参加申し込みの際、「どのようなことを行うのかわからないので、まずは自分が初日に参加をし、そこで以後子どもを参加させるかどうかを判断する。」と申し込んできた40代の父親が、結果として自身が「ものづくり」に熱中してしまい、毎回子どもと共に参加を続け、最終日には参加者の前で保護者代表として挨拶をしていただいた。これは当初の狙いが成功した例と言える。
また「ものづくり」による共同参画の有効性や、「人のネットワーク」構築における現場力、評判、口こみの効果も十分に得る事が出来た。
一方で、次のような課題も浮き彫りになった。
・高齢者の参加が少なかったことと、それに結びつけることのできるキーマンの理解を得ることができなかった。
・30代から50代の男性の参加者がほとんど見られなかった。
・専門家同士で連携をすることは難しく、負担軽減や実益に配慮をしても、関心のないと思われるテーマや活動へは理解・協力を得ることができなかった。
・多世代交流という目標のためには関係者間の意識共有が不可欠であり、狭義で関わる関係者の組織運営への介入は、それが端的な活動として捉えられてしまい、情報共有や外部発信の面での問題が伴った。
・子どもと学生との活動と捉えられてしまい、多世代での交流にまで関係者や外部への関心を向けることができなかった。
・地域での活動に対する信用、実績の積み重ね、活動の継続のためには財源と地位、そして権威が必要とされる。
またこれら体験からの学習活動は学生だから出来る活動であると捉えられ、さらに学生たちが中心となるこのような活動ではその継続が難しい。
本来、これらの活動は継続させることに意義があると考えられ、そのためには大学を卒業しても人生は常に学びの場であるということを一連の活動を通して学生たち若い世代に体感してもらうことが重要である。
このような観点からも、これらの活動にはより多くの社会人(30〜50代の男性)や経験豊富な高齢者をも巻き込んだ、より多世代での交流の場を設けることが必要であるという新たな目標を設定した。
また多世代交流研究のキーワードとして「体験から学ぶ」「生涯学習」「価値観の変換」「発言への責任」ということにも留意し、今後の研究に繋げることとした。
第二展開
- □Step1 目標の設定
- □Step2 社会環境要因の分析
- □Step3 事例調査
これら第一段階の結果検証から、現在は第二段階の研究を進めている。
第二段階ではグリーンスクール実験により抽出された地域の大人たちや高齢者との関係づくりを目標としていく。
第一展開の結果から「多世代交流空間の創出」への展望として「多世代ネットワークの形成」と「異分野コラボレーション」に注目し、研究を進めることにした。
2006年10月時点での我が国の65歳以上の高齢者人口は2660万人であり、高齢化率は20.8%となっている。その中でも一人暮らしのお年寄りは405万人で、高齢者全体の15.1%を占めている。
2015年にはこの高齢者世帯は約1700万世帯に増加し、そのうち一人暮らし世帯が約570万世帯(約33%)に達し、2025年には680万人に達すると予測されている。
しかし昨今の未婚率や離婚率の増加、少子化や核家族化の進行で実際にはこの予測よりもさらに増えるであろうとも言われている。
こうした一人暮らしのお年寄りの増加とともに、彼らの健康維持や介護での不安、団地などでの「孤独死」の問題などが取り上げられるようになり、社会問題化してきている。
そのような状況の中で、一人暮らしのお年寄りをどのように地域で支えていくかは現在の日本が抱えている急務な課題である。
当研究ではこれら独居高齢者が地域の中に出て行くためにはどのような提案があるか、また地域の人々がどのように彼らとの接点を持つかに注目をしていきたいと考えている。
事例調査においては、そのキーワードに「コミュニティの新生」という言葉を用いている。これは「再生」に代わる言葉として使用している。
「再生」というからには一度あったものが破壊され、それを直さなければいけない、という意味合いを持つが、我々の目標は前述したように以前のものに戻すというものではない。
むろん過去に存在したコミュニティの原型と呼べるものを学び、それを地域や人々の間に取り戻そうとは試みているが、それは決して過去と同じものではない。
新しい時代の新しい形を、過去の事例を参考にしながら生み出していくということで「コミュニティの新生」を目指し、その可能性を探っている。
現在はこのようなコミュニティの新生に有効的と思われる活動や施設を探り出し、その事例の調査を進めている。
またこれまでの各研究や実践で一貫したテーマである「学び」というものは重要な要素であり、それについての展開を考えている。
ここまでが現在までの研究結果である。当面は「高齢者の地域との関わり」と「コミュニティの新生」の2点において、そのためにはどのようにすればよいかといった検討を進め、実践に向けた調査・提案を模索しているところである。
今後に向けて「間のデザイン」
現時点で筆者が注目している考えが「間のデザイン」である。
多世代交流を取り組んだまちづくりや施設設計において、ハードとして表現される建物などの箱モノを「空間」と考える。
一方で多世代ネットワークや地域の関わりのように人的・社会的なつながりなど、一般にソフトとして表現されるものを「人間」とする。
そういった中で、私たちが考える多世代交流については、このソフトとハードだけではない、もうひとつの要因を組み込んでいる。それが過去や現在の事例から学んだり、継承や継続などを重要視するものである。この関わりを「時間」として考えている。
この建築や都市計画分野からのハード的な部分からの検討、社会学や経営学、住民活動視点からのソフト的な部分からの検討と共に、それらをつなぐ「時間」の検討も進め、「人間・時間・空間」をすべて含めた上での「間のデザイン」を今後検討していきたい。
しかしこのような研究は決して端的な研究だけで結論づけられるものではない。「多世代交流空間とはこうである」という結論は簡単に出せるものではなく、もしかしたらその結論は永遠に出ない可能性もある。
そこで重要なことは、端的な研究で終わらせることなく、続けていく、継続させていくということである。そしてそれは非常に「手間」のかかるものではあるが、その「手間」を惜しますに研究を継続させていくことが、多世代交流空間の実現に結びつくと考えている。
また地域や子どもたちに向けた取り組みは日本全国に数多く存在している。これらを検証してみると、結果はそれぞれの形でそれぞれにあることに気づく。
重要なのはその結果ではなく、それらの活動を行ったことによって形成されたネットワークや「仲間」づくりにあるのではないだろうかと考えられる。
またこのような活動は一人で行うことは困難であり、今後も研究や実践を進めていく上でも、共に協力し刺激し合える「仲間」を増やしていくことは、重要な課題であると考えられる。
この「人間・時間・空間と手間・仲間」の「間のデザイン」に注目し、第二段階での多世代交流空間研究へ導入していきたいと考えている。